政略結婚ですが、クールな旦那様の溺愛が始まりました
月日が流れていく中、あの夜のことは忘れるだろうと思っていた。


ところが、その認識は甘かったようだ。
忘れるどころか、日に日に想いが募っていく。パーティーなどでは無意識にすみれの姿を探しては、姿が見えずに言いようのない虚しさを抱いた。


これまで、慧の心や印象に残った女性はひとりもいない。ビジネスならともかく、元カノの顔すら思い出せないほどプライベートの女性関係はシビアだった。


それなのに、すみれの笑顔だけはずっと脳裏に残っている。しかも、あろうことか次第に色濃くなり、記憶の中の彼女が恋しくなっていく。


色恋にのめり込む人間を見ては、バカみたいだと呆れていた。たかが恋愛になぜそんなにも夢中になれるのか、ちっとも理解できなかった。


それが一転、慧の心のほとんどがすみれの笑顔に侵されている。あんなにも呆れていた状態に、自分も陥ってしまったのだ。
もう、後戻りできる気はしなかった。


残念ながら、彼女に会う機会はないまま。けれど、二年以上の月日が流れても、慧の心が変わることはなかった。


六条家が娘の結婚相手を探しているという話を耳にしたのは、そんなときだ。すでに何度か食事会を開いているのだという。


あるパーティーで偶然耳にしたのだが、一部の男たちがざわついていた。高嶺の蕾などと言っておきながら、すみれに好意を持っていた男は多かった……ということだ。


四人の男たちの会話にさりげなく入ると、彼らはペラペラと話した。


食事会とは表向きで、見合いのようなもの。しかし、これまでに食事会に行った者はみんな、二度目はなかったのだとか。


そう聞いて安堵した直後、ひとりが次の食事会に招かれていると聞いて焦った。顔には出さなかったつもりだが、飲んだばかりのワインが逆流しそうだったほどだ。


三人がどんな経緯で招待されたのかと聞き、男が得意げに語る。


『以前、六条社長に話しかけたことがあるんだよ。仕事の話で盛り上がって、六条商事に憧れてるとか適当に言ったから、気に入られたのかもな。もちろん社交辞令だけど、高嶺の蕾に興味があったし招待を受けたんだ。あの子、外見とスタイルはいいし』


軽薄に笑う男に、三人が『俺にも紹介してくれ』などと言いながら群がる。男はまんざらでもなさそうだが、この様子だと上手くいくことはないだろう。

< 91 / 204 >

この作品をシェア

pagetop