愛より金を選んだ男爵令嬢は人違いで溺愛される
 それはノーだ。私とラウス様の距離は6人乗りの馬車に無理矢理もう一人追加して乗っているのではないかというほどに近いのだ。

 御者はもちろんのこと、お付きの使用人までもが御者の隣に座っているため、馬車の中には二人しか乗っていない。つまり空きスペースの方が格段に広い。……だというのになぜこんなに近いのか。

 答えは簡単だ。なぜかラウス様が距離を詰めてきているからだ。
 初めは極度の馬車酔いで体調を崩して、支えを欲しているのではないかとも考えたがどうやら違うらしい。

 見た目だけで判断を下すのならば健康この上ない。
 今にも鼻歌を歌いそうな、上機嫌のラウス様が体調不良だというのならば今後はこんな素人ではなく、医師の資格でも持った者を側に置くことを勧めたい。

「ラウス様?」
「どうかしたか?」
「近くありませんか?」
「そうか?」

 腕がふれあうほどの距離なのに、ラウス様は私の指摘に首を傾げる。どうやらこの距離をどうにかするつもりはないようだ。

「そうだ、モリア。何か不便に感じていることはないか?」
「ありません。皆様、本当に親切にしてくださっていて……」

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