愛より金を選んだ男爵令嬢は人違いで溺愛される
 ただでさえ花瓶一つを恐れている私が、いくら頑丈に作られたショーウィンドウで守られているとはいえ、傷のつきやすいものばかりが揃う宝飾店に緊張感を全く持たずして臨むということがどれだけ無謀なことか、他ならぬ私がよく知っている。

「モリア? どうかしたのか?」
「いえ、なんでもありません」

 今すぐに緊張感を最大限に発揮して臨むしかあるまい。
 ここは王都、ここは王都。と頭に何度も語りかけながら一歩、また一歩を踏み出す。

 ――店員によって開かれたドアの先の風景は私の記憶に刻まれることはなかった。

 そして気付いた時、私はお屋敷のお風呂にいた。


「絹のようになめらかで、けれどもっちりした張りのあるお肌! 気合いが入りますわ!」
 ぼうっと惚けている間に何人もの使用人達にくまなく洗われる。
 もこもこに立てられた泡で全身を覆われ、温かいお湯をかけられればシャボンの香りが鼻をくすぐった。

 水分を拭き取られ、用意されたネグリジェに袖を通す。ドレスとは別方向の高度な技術で作られており、生地が薄くてスケスケ。まるで頼りがいがない。

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