愛より金を選んだ男爵令嬢は人違いで溺愛される
 完璧なダンスは求めていないのだが、火がついたアンジェリカはもうやる気満々だ。ここでわざわざ水を差すこともないだろう。

 去りゆく小さな頼もしい背中と、こちらに深く礼をしてから去っていく大きな背中に、今から夕刻までダンスのレッスンを続けるつもりなのかと聞きたくなってしまったのだが、それはシェードが部屋に来ればわかることなのだろう。


 部屋でゴロゴロとしたり、筋力トレーニングをしたり。何かと暇を潰しながら過ごしているとアンジェリカの宣言通り、夕刻にドアが叩かれた。

「はい」
「モリア様、お迎えにあがりました」

 もちろん外で待っていたのはシェードだ。どことなく朝よりも肌ツヤがいい。

 今日のアンジェリカの『反抗』が彼の中で心配事だったのだろう。少しでも役に立ててよかった――そう安心したのもつかの間のこと。

「私も一緒に?」
「はい!」

 アンジェリカが思いつきのように提案したのは、彼女のダンスを見た後だった。実際踊っている最中に思いついたのだろう。名案を思い付いたものだとばかりに顔は輝き満ちている。

< 184 / 341 >

この作品をシェア

pagetop