愛より金を選んだ男爵令嬢は人違いで溺愛される
「こ、こちらこそ、よろしくお願いします」

 アンジェリカにダンスを教えているのだという先生は、シェードよりも頭一つ分ほど小さく、身長差をあまり感じさせなかった。

「しっかりリードしますから気負わずに楽しみましょう」
「は、はい……」

 過去に後悔の念を馳せることを止め、返事をしたもののやはり足を踏んでしまったらどうしようかとばかり考えてしまう。

 ダンスの先生なのだからお兄様やお父様より上手なのだろうが、慣れというものもある。

 お兄様やお父様は私の足さばきの癖も把握しているだろうし、何より昔から私に足を踏まれ慣れているのだ。お父様に至っては私だけでなくお姉様の練習にも付き合っていただろうから踏まれた回数は少なくとも倍はある。

「気にしなくていいんだよ。もう踏まれることに慣れているせいか僕自身、あんまり気にならないんだよ」

 お父様は私と踊る時、決まってその言葉を口にした。

 私が緊張してしまうことを知っていたのだろう。お兄様に至っては上手く踊れると、それはもうすごい勢いで褒めてくるので少しだけ恥ずかしかった。

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