愛より金を選んだ男爵令嬢は人違いで溺愛される
 先生の腕前はさすがとしか言えないほどだった。ただ私は先生に身体を任せていただけで、一曲分のダンスで一度もステップを間違えることなく踊ってみせたのだった。

「ありがとう、アンジェリカ」

 微笑みを返しながら、心の中でホッと一息つく。


 失敗しなくて良かったと。
 自分よりもいくつも幼いアンジェリカに醜態を晒さなくて良かったと。


 だが一つ大きな問題がある。
 踊ってみて実感したのだが、以前参加した夜会から随分と時間が空いてしまったせいか、だいぶダンスの腕前が落ちている気がするのだ。

 今回はその道を生業とする先生がリードしてくださったから良かったものの、もしも他の人だったらと思うと心配になってしまう。赤の他人の足を踏むなんて失態をするわけにはいかないのだ。

 幸運にも動きが固くなっているだけでステップを忘れたわけではない。

 カリバーンの屋敷に滞在しているため、共に練習してくれるお父様、お兄様はいないのが痛手ではあるが、これなら持て余した時間で練習すればすぐにまた感覚が戻ることだろう。

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