愛より金を選んだ男爵令嬢は人違いで溺愛される
 細かい装飾が要求される城を模した物ともなればそれなりに時間は要するだろうが、この屋敷に来てから結構な時間を持て余している私ならば数日のうちに完成させることができるだろう。

 だがどうやら彼らは私の技量を心配して同じものを注文したわけではないらしく、私の提案にゆっくりと首を振った。

「薔薇がいいのだ」――と。

 そこまで言われれば無理に他のものを勧めることもないと全員分、薔薇の刺繍をすることに決めた。

「では色はどうしましょう?」

 この様子だと皆が皆、ラウス様に渡す予定のハンカチのものと同じく赤薔薇かもしれないと思いながら聞くと今度は三人ともが違う答えを返して来た。

「私はピンクの薔薇がいいですわ! だって、だって可愛らしいもの!」
「私は気高く、美しい白薔薇がいいわ」
「俺は青薔薇かな。この前、学園に植えられていたの、綺麗だったんだよな……」
「お義父様のはどうしましょう?」
「モーチェス様は私と同じ色のものがいいわ!」
「わかりました」

 そう返事をすると後ろからスッとまっさらなハンカチ5枚と針、そしてピンク、白、青、赤、緑の刺繍糸の入った籠が差し出される。

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