愛より金を選んだ男爵令嬢は人違いで溺愛される
 ダンスステップもあるからしばらくは大丈夫だろう……と考えてもいたけれど、相手がいなければ本当に確認程度の軽めの動きしか出来ないのである。

 幸運にも明日からは刺繍を施すという役目を与えられている分、暇ではない。ただ何かが物足りなく思うだけである。

 しばらくの辛抱なのだと自分に言い聞かせ、布団の中に身体を滑り込ませる。そして無理矢理思考を運動からハンカチに施す刺繍についてと切り替える。真っ先に思いつくのはやはり薔薇についてだ。

 なぜか三人が三人とも薔薇の刺繍を望んだ。
 それはなぜか?
 私も一時期は薔薇の刺繍にハマり、一心不乱に施したことがあったもので腕には自信がある。

 確かあの時はお姉様達に喜んで貰えたのが嬉しくて嬉しくて、私のデビュタントでは姉妹揃ってどこかに薔薇の刺繍を誂えたものだった。

 一番上のお姉様は髪飾りに、二番目のお姉様はハンカチに、三番目のお姉様はドレスの裾に、そして私は……。そこまで考えてふと思考が止まってしまった。


 私は何に刺繍したんだっけ?


 もうあれから5年が経つ。
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