愛より金を選んだ男爵令嬢は人違いで溺愛される
 揺らぐ心を切り替えるために頬を思い切りバチンと両方から叩く。そして都合の悪いことを忘れるようにして布団を頭から被った。

 何も見えない視界と温かな遮られた空間はすぐに私を眠りの世界へと誘ってくれた。



「ラウス様、おはようございます」
「おはよう、モリア」
「あの、ラウス様。もしよければこれ……受け取っていただけませんか?」

 いつものように挨拶をしてから、今日も今日とて機嫌が良さそうなラウス様に忘れないうちにとすぐにハンカチを差し出す。

 贈り物をするなんて家族以外にそうそう機会がなかったからか、妙に手が震えてしまう。
 拒まれたら自分で使えばいいのだと分かってはいるものの、やはりそこはハンカチの利用方法よりも気持ちの問題だろう。

 中々手の中から布の感覚は無くならず、迷惑だったかと、いつこの手を引くべきかと足元に固定した視線は右に左にと泳ぎ始める。

「すみません、忘れてください」

 沈黙に耐えかねその手を胸元へと持ってくる。やっと足元から視線を上げ、気にしないで欲しいという意味を込めてクシャリと笑いかける。

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