愛より金を選んだ男爵令嬢は人違いで溺愛される
 それでもまだラウス様の目を見られず、彼のシャツの合わせに向かって。

「お時間を取らせてしまって申し訳ありません。朝食にしましょう」

 まくし立てるように目の前で静止したままのラウス様に語りかける。

 早くこの場を後にしたいという思いが無意識のうちに出てしまっていたのか、踏み出した一歩はいつもよりも大きかった。

 二歩、三歩と行き場をなくしたハンカチと共に歩みを進めても一向にラウス様がその後に続く様子はない。

 刺繍したハンカチを贈ろうとするという行動がそんなにも気分を害したのかと振り返る。

 するとそこにいたのは目を見開いて先ほどまで私の手があった場所を見つめるラウス様の姿だった。

「すまないモリア。私は……間違えた、のだな」

 何について、とは聞き出せなかった。
 だがラウス様が間違えるものなど、こんなにも後悔した顔を浮かべるものなど、彼をよく知らない私が思いつくのは一つしかなかった。

 ラウス様はやっと私が本物ではないことを気づいたのだ。

 引き金となったのは先ほど渡そうとした薔薇の刺繍の入ったハンカチだったのだろう。
 結婚する前に気づいて良かった。

< 215 / 341 >

この作品をシェア

pagetop