愛より金を選んだ男爵令嬢は人違いで溺愛される
 婚約すら交わしていないのだからまだ間に合う。
 だから私とラウス様は元の関係に、お金以外の繋がりなどない、男爵家の四女と公爵家の長男にして次期宰相様に戻るだけだ。

 ……ただそれだけだ。
 だから今私の胸の中でドロっと疼きだしたものは歓喜のはずなのだ。今まで感じたどの感情とも違うけれど、喜びでなくては困るのだ。

 ハンカチを握る手に力が籠もる。だが私の中に渦巻く感情も縫い付けられたその花も散ってはくれないのだった。


「ラウス様、モリア様。朝食の用意は済んでおりますが……」

 中々降りてこない私たちを心配してハーヴェイさんがやって来るまでずっと私達の間にあったのは沈黙だった。

「ああ」

 長年を共にしただろうハーヴェイさんに返す言葉さえも冷たく、ラウス様の後悔がどれだけ大きなものか容易に想像が出来た。

 私はあの日、説得を諦めるべきではなかったのだ。そうすればラウス様がこんなにも苦しむことはなかったのだろう。


 愛より金を選んだ私と地位より愛を選んだラウス様。


 元より私達の目的には大きな溝があったのだ。

 私はまだ愛とは何かの答えをよく知らなかった。
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