愛より金を選んだ男爵令嬢は人違いで溺愛される
 けれど君はそんなことも気にせずに休憩室で俺を休ませている間、違う部屋で汚れを落としてくれた。そこでやっと君が彼女達とは別の種類の人だと知った。君の行動は善意だったのだと……。

 君にお礼と謝罪がしたいと君の入って行った休憩室を訪ねると君は胸元が濡れたドレスを着て出てきた。てっきり汚れを落としていた君の使用人が出てくると思っていたのに、だ。

 驚いて『使用人はどこにいるんだ?』と聞いた私に君は言った。

『馬車で待っているのだと思いますが、なにぶん夜会は初めてなもので……』――と。

 驚いたよ。君は自分で私のジャケットの汚れも自分のドレスの汚れも落としていたんだ。

『あの、ドライヤーって貸してもらえますかね?』
『ああ、借りてこよう』
『すみません』
『何、ジャケットのお礼だ』

 ドライヤーでドレスを乾かし終わった君の瞳は輝いていて、その瞳に囚われたいと思った。そして私は『君を迎えに行く』と言ったんだ。

 濡れた胸元に誂えてあった白薔薇を携えて。

 その時の約束を忘れていたことは本当に申し訳なかった。
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