愛より金を選んだ男爵令嬢は人違いで溺愛される
 何も話さずとも温かさを実感できる時を噛みしめているともう一人、この空間には欠かせないアンジェリカが目を開いた。

「ふぁ、ん……お兄様、お義姉様」

 あくびを噛みしめたアンジェリカは眠気まなこを擦って、隣に私たちがいるのをゆっくりと確認すると左右に手を伸ばした。

 卵を掴むように指先の丸まったその手を私が握り返すと、遅れてラウス様も反対の手を握った。

「おはようございます」

 居場所を見つけた手をアンジェリカは嬉しそうに眺めた。そしてしばらくそこに固定し続けた視線を私たちに移すとゆっくりと口を開き、そして胸のうちを語った。

「私、今日、王子の元へ行ってきますわ」

 その言葉は何を意味するのか、私にはわからない。けれどその決断は彼女にとっての一大決心であるということだけはよくわかるのだ。

 そんな私に出来るのは無力にも抱きしめてあげること、そしてこの屋敷で彼女の帰りを待っていてあげることだけなのだ。

「アンジェリカ」

 私とラウス様、二人に抱きしめられたアンジェリカは一層幸せを噛みしめるように目を細めた。

「お義姉様、この子を預かってはいただけませんか?」

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