愛より金を選んだ男爵令嬢は人違いで溺愛される
 微かな音を打ち消してしまう、庭のどこかで鳴く虫の声が今日だけは煩わしく感じた。

 結局なんの音も耳に入らなくなったのは睡魔が襲ってきた時だった。
 途中でグスタフがお腹の上にのしかかってくれなかったら完全に眠りの世界へと迷い込んでいたところだ。

 ありがとうと口だけ動かすと気にするなとばかりにグスタフは背中をぷいと向けた。

 私は本当にいい相棒を持ったものだ。

 グスタフの背中に続いて音を立てないように扉を開ける。どんな小さな音すらも優秀なカリバーン家の使用人達の耳には入ってしまいそうで、常に緊張が身体を巡っていった。

 階段まで差し掛かると、前を進むおデブなグスタフが降りるときは音なんかしないのに自分の時だけギシギシなるんじゃないかって恐ろしくなった。

 けれどここ数年で建て付けが気になりだしたサンドレアの屋敷ならともかく、カリバーン家でそんなことなど実際はあり得ないのだ。

 前を進むグスタフは時折、その長い尻尾を左右に振って本当にいいのかと私の心を読んだかのように心配してみせる。

 本当に、さすがはグスタフだ。
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