愛より金を選んだ男爵令嬢は人違いで溺愛される
「以前ラウス様はあの日のことを忘れてしまっている私に何があったのかお話ししてくださいました。そしてその時、ラウス様はドレスの胸元に白薔薇の刺繍があった、と」
「ああ、確かにあった。モリアの瞳の色よりも柔らかな緑のドレスの胸元に、細やかな刺繍がいくつかあったはずだ」
「確かに一度帰ったサンドレアの屋敷で私が見たドレスもグリーンでした。ですが胸元にあったのは同系色のフリルで、薔薇の刺繍なんて、なかったんです……」

 それでは私はお姉様たちとお揃いにしたはずの刺繍をどこに誂えたのかと。
 ラウス様が白薔薇のあった場所を勘違いをしているのではないかと涙の染み込んだドレスの至る所を探した。けれどそれはドレスのどこにもなかった。

 おそらくはドレスではなく、あの日身につけていた小物に刺繍をしたのだろう。
 だがそれが何なのか、そしてその薔薇が何色のものだったのかも分からず、それは別人であったと結論づけるしかないのだ。

 現に私はその日の記憶などないのだから。

「私にそのドレスを見せてはくれないか?」
「え?」
「自分で確認もせずにみすみすモリアから身を引くことなど私には出来ない」
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