愛より金を選んだ男爵令嬢は人違いで溺愛される
 けれど私はもちろん、一家全員が上級貴族に囲まれた夜会などにそう何度も出席しているわけもなく、皆一様に表情筋が凝り固まっていた。

 そして帰宅後は疲労で全員が一日中机に突っ伏していた。
 そんなだったせいでその夜会の詳細な記憶はない。ただ無礼を働かないようにとだけ頭に強く残っていた。ただそれだけだ。

 おそらくは一家のほぼ全員が壁側に寄って過ごしていたことだろう。

 あまりの緊張のせいで着ていたドレスってこんなだったっけ? と数日後に自室にかけてあったドレスを見て首をかしげるほどだった。

 いくら下級貴族とはいえ二十年近く生きていればその後も数回ほど王都への招集もとい王都での社交界にお呼ばれすることもあったが、それを何かにつけて断り続けた。

 やれ体調が優れないだの、飼っていたネコが死んでしまっただの……。
 よくそんなチャチな言い訳が毎度通るなと感心してしまうほどだが、意外とどうにでもなるものだ。ド田舎の男爵令嬢が一人欠席した所で、噂にすら上がらず、結果として悪口を言われることすらなかった。

 例外があるとすればたった一度だけ。

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