愛より金を選んだ男爵令嬢は人違いで溺愛される
 幸せに浸っていると選んだケーキと反対側からは機嫌の悪そうな声が漏れ聞こえる。


「モリアちゃん、サキヌのばっかり味わってないで私のも食べてちょうだい!」
「あ、はい」

 お義母様に急かされる形でもう一つのケーキを口に運ぶ。
 今度はサクサクとしたパイ生地と濃厚なカスタードクリームが何層にもわたって積み重なっており、その上には絞り出したカスタードとイチゴがちょこんと乗せられている。

 先ほどのケーキが絶妙な甘さで統一されていたのならばこちらはカスタードの甘みとイチゴのほのかな酸味によって構成されている。

 どちらもその特徴は違いながら食べたものを幸せにさせるのは同じだ。口を動かすたびに幸せが飛び跳ねて口の中で充満する。

「……幸せ……」

 借金のカタとしてやって来たのにこんなに幸せでいいのかと問いたくなる。

 幸せに浸る私を左右の二人は目を丸くして見つめている。

 彼らが頻繁、とはいかなくても幾度となく食べているケーキをこんなに幸せそうに食べているのは、さも不思議な光景に見えるのかもしれない。

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