乳吸鬼♀&未来偵察メイド(裏編):ヴァレリの前日譚

第二話 時間回帰の罠

(1)
 まず最初にシチュエーションからして、まず考えたのは何かしらの防衛システムに引っかかった可能性だった。「魔族の優勢と強権支配をリセット」しようとする者がいると察していれば、この町の内城を拠点とする魔族側が何かしら対策してきていてもおかしくないだろう。
 けれども予兆すら察知できなかった。
 さらに奇妙なのはタイミングと手法だった。
 最初に考えたのは、「危険な恐れがある者(自分)が近づいてきたから遠くにワープさせた」という仮定。けれどもそれでは辻褄が合わない。不意打ちで強制ワープさせて距離をとったり時間を稼ぐというのならば、飛ばされたのがわずか一キロにも満たないというのは変だった(ここから内城の前まで徒歩や走っても数分でしかない)。
 しかも、数秒間ほど警戒して様子見していても、魔族側が攻撃を仕掛けてくる気配はない(こちらに気づいたなら排除しようとするのでないか?)。もしも危険分子や敵への対処が目的ならば、強制ワープさせられた直後、まだ面食らっているうちに奇襲してくるはずでないのか?

(どうした? 急に)

 どうやら地霊AIのワンが不思議がっているふうだが、いきなり内城前から数百メートルも飛ばされたことに気づいていないのか?
 前の方から、あのルントゥという少女が軽やかに走ってくる(さっき出会ったときと既視感がある)。まさかこの子が刺客なのだろうか?

「スカートの後ろがめくれている」

 まだすれ違う前に、正面からあてずっぽうに言ってみる。ヴァレリアンは前から見ているのだから、ルントゥの後ろ姿がどうなっているかなんかわからない。
 とりあえず反応を見たかった。
 ルントゥは怪訝な顔で歩度を落として、手でスカートの後ろを確認し、「あ」と小さく呟いて直す仕草をする。どうやら当たりらしいが、ついさっきにやらかした(そしてヴァレリアンに指摘された)のと同じことをやるものだろうか?

「何でわかったの?」

 彼女も事のおかしさに気づいたらしい。
 ヴァレリアンは自分の前に立っているのだから後ろが見えているわけもない。

「見かけない顔だけど。あなたって、予言者とか千里眼でもあるわけ? 人間みたいだけど普通となんだか違う」

「ルントゥ。君はさっきこのあたりですれ違って、後ろの方に走っていったように思うが、戻ってきたのか?」

 たぶん違う。ランニングで周回でもしているのでない限り、すれ違って歩き去った相手がまた前方からやって来るのは奇妙だ。

「私が? どうして名前を?」

 目を丸くして驚いた顔のルントゥ。
 どうやら本気で覚えていないらしい。いや、このルントゥにとっては本当にまだ遭っていないのだろう。嘘で騙そうとしているにしては態度がトンチンカンだった。
 ワンが言った。

(何言っているんだ? そんなことなかったし初対面だぜ? その子の名前はルントゥで合っているけど、なんで知っているんだ? 先に調べて目的でもあるのか? どういうつもりの芝居だ?)

 ヴァレリアンに見える地霊AIのアバターのレッサーパンダは腕組みして小首を傾げている。
 まさかとは思ったが、やっぱりそうなのか?

(さっき内城前からここまでワープした。時間回帰のトラップかアクシデントらしい)

(マジで? でも、時空の歪みはないみたいなんだけど。主観時間だけ巻き戻るタイプかな?)

(このルントゥに時間回帰の能力は?)

(データ見る限りでは違うと思うが)

 ルントゥが事態を飲み込めないまま、好奇心と警戒の眼差しで見つめてきている。
 迂闊に素直に事情を話すのは考えものだ。ヴァレリアンの物騒な目的からすれば、情報をベラベラ喋るのは得策でないし、ルントゥは混血ハーフとはいえ魔族なのだから。勘繰られるだけでも不都合だろう。だが殺すのは特にこんな町中では隠蔽が手間だったし、彼女の様子からして殺すターゲットとして不適切でもある。
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