おくれなば
ブウゥーン!
「っ!」
目の前に黒い何かが通り過ぎ、咄嗟に身を引く。
腰を反らしながら見えたそれはたぶん大きなハエのような虫。
それに気を取られてかかとに何かが引っかかった、と思ったら体はもう後ろに傾いていて。
「わっ、わぁああっ」
きゃっ、という叫びと同時に尻もちをついた。
「いててて……っ」
誰かいる、という声がして、ザッザッと土を踏む音と共に現れたのは、
「誰かいます?」
「……あ、」
目つきの悪い君と、
「さ、くら、さん……?」
両目を見開く梅ちゃん。
「大丈夫?立てる?」
そう言って真っ先に手を差し出す橘くんが、少しかっこよく見えた。
「あ、ありがと……」
その手をとって、立ち上がる私は、すごくかっこ悪い。
トクン。
ぽう、と、手から伝わった熱が、顔に登っていくような感覚がした。
ドクッ、ドクッ、ドクッ……。
なぜか、心拍が速まった。
角ばった大きな手を、ただ見つめる。
そこに理由はないはずなのに、なぜか、見つめてしまう。