おくれなば




ブウゥーン!


「っ!」


目の前に黒い何かが通り過ぎ、咄嗟に身を引く。

腰を反らしながら見えたそれはたぶん大きなハエのような虫。

それに気を取られてかかとに何かが引っかかった、と思ったら体はもう後ろに傾いていて。


「わっ、わぁああっ」


きゃっ、という叫びと同時に尻もちをついた。


「いててて……っ」


誰かいる、という声がして、ザッザッと土を踏む音と共に現れたのは、


「誰かいます?」

「……あ、」


目つきの悪い君と、


「さ、くら、さん……?」


両目を見開く梅ちゃん。



「大丈夫?立てる?」


そう言って真っ先に手を差し出す橘くんが、少しかっこよく見えた。


「あ、ありがと……」


その手をとって、立ち上がる私は、すごくかっこ悪い。



トクン。


ぽう、と、手から伝わった熱が、顔に登っていくような感覚がした。



ドクッ、ドクッ、ドクッ……。


なぜか、心拍が速まった。



角ばった大きな手を、ただ見つめる。

そこに理由はないはずなのに、なぜか、見つめてしまう。


< 18 / 57 >

この作品をシェア

pagetop