おくれなば
「時間、大丈夫ですか?」
ふとそんな声がして、胸ポケットからスマホを取り出して時間を確認する。
あと10分で始業のチャイムが鳴りそう。
「やばっ、私ゴミ捨て場探してたんだった!じゃあまた!」
慌ててスマホをポッケにぶっ刺し、来た道を戻ろうと踵を返し、走り出す……
……つもりだった。
「うわあっ!」
脚のバランスが崩れて、視界が倒れそうになる。
また転けちゃう、と思った、その時。
ぐい、と腕に引力を感じ、重力に逆らって頭が元の位置に戻る。
そして背中に、温度を感じる。
「危なかった……」
「っ!」
え、え、なにこれ。
ちょ、ど、ど、どうしよ……!!
後ろからハグされているみたいな体勢。
かあっと全身が熱くなる。
「気をつけて。ここ足場悪いから」
「ごごごごごごめんっ!ああああありがと橘くん!!」
すぐに離れて熱を解放する。
燃えそうな私とは裏腹に、橘くんは平然とした顔でじゃあまた、と片手を振る。
かろうじて手を振り返し、逃げるようにその場をあとにした。