おくれなば
一瞬で人に惚れてしまうなんて経験は初めてです。
だからでしょうか。
まだ気持ちを伝えていないのに、早くこの気持ちに気づいてほしいなんて、強欲なことを思ってしまうのは。
毎日会っているのに、夜になると恋しくて、毎朝早く家を出てしまうのは。
そんな私は、橘くんの気持ちを確かめる術もなければ勇気もありません。
でも、それを言い訳に悠長に待っているだけでは不味い状況になってしました。
今朝、庭に現れた桜さんに、どうやら橘くんの魅力がバレてしまったようなのです。
あの時は橘くんが鈍感でよかったと心底思いました。
しかし同時に、橘くんが誰かに取られてしまうのは時間の問題だとも思いました。
それは嫌。絶対に嫌です。
橘くんは誰にも渡したくありません!
「橘くん、今日は夏に向けてこの種をまきましょう」
放課後の庭は私のテリトリー。
幽霊部員が大多数なので、毎日ここに来るのは二人だけ。
橘くんを独り占めできる、大切な空間、愛おしい時間。