おくれなば
しばらくして、とん、と橘くんの青いじょうろがぶつかって、見ると橘くんが微笑んでいて。
自然と私の顔もほころんで、軽くなったみどりのじょうろをこつんとぶつけ返しました。
中の水がぴちゃんと可愛い音を響かせました。
「夏が楽しみだ」
「そうですね。すくすくと育ちますように」
まだ咲かないそれらを眺め、こくりと頷く橘くん。
「じゃ、帰ろっか」
「はい」
次は私がこくりと頷きました。
そうしてじょうろを隅に置いて、鞄を取りに教室へ向かいます。
ひゅう、と春の温かい風が肌を撫でて。
ひらひらと薄桃色の花びらが盛大に散ってゆく景色。
キュッキュ、と体育館シューズの激しい摩擦音。
ボーーーン、と校舎に響き渡る楽器の音色。
カキィーン、と高々な球の音。
青い春を感じました。
それらが、私の背中を押したような錯覚でした。
目の前のその白いシャツに手を伸ばし、
「橘くん、よかったら一緒に帰りませんか」
ぎゅっと手繰り寄せていたのです。