おくれなば
本当にそこに桜の花が咲き誇っているかのように、美しくなびいている。
「満開の桜みたいで綺麗」
思ったことをそのまま口に出したら、桜はうっすら赤い頬を両手で挟んできゃー嬉しい、なんて叫ぶ。
庭の落ち着いた空気も悪くないけど、朝から明るくて楽しい笑い声も心地よい。
「あの、橘くん……私は三つ編みの方が似合ってましたか?」
遠慮がちに俺の返事を待つべにちゃん。
どちらが似合うかと問われても、どちらも似合ってるし彼女らしさは大差無いから。
「どっちも似合うから選べない」
こんな返答しかできないせいで、目を逸らした彼女は自らの髪に触れてうつむく。
「ありがとうございます」
どうやら納得していたようで、ほっと胸を撫で下ろした。
するとタイミングよくチャイムが鳴って、べにちゃん含めクラスの人たちは各々自席に座った。
「宏弥、これ」
この隙を待っていたかのような声。
前の席に座る桜の手が、俺の手のひらに重なる。