恋をしない秘書と恋に落ちた御曹司の甘くて危険な攻防戦
「あの……?」

「俺のポケットマネーなら文句はないだろう?」

 文句を言える立場ではないが、それにしても普通では考えられない。まさか出張でファーストクラスに乗ることになるなんて、夢でも見ているようだった。

 呆然としている私の隣で、手続きは着々と進められていく。

「では橋爪様のお席は、エコノミークラスからファーストクラスへ変更させていただきました」

 カウンターの中にいる他のスタッフたちも、事の一部始終を見ていたようだ。要さんの姿を目で追い、うっとりと見惚れている。

「ありがとう」

 要さんが満面の笑みで礼を言うと、周囲から小さな歓声にも似た黄色い声が上がった。

 ――やっぱり目立っている。

 この人は天然の人たらしなのか、それとも計算なのか。いまだに私には判断がつかない。

 そのまま要さんに連れられ、ファーストクラス専用ラウンジへ向かう。

 一般人の私にはまったく縁のない空間だ。落ち着いた照明に上質なソファ、静かに流れる音楽。どこを見ても高級感にあふれていて、私はきょろきょろと辺りを見回してしまう。

 場違いな気がして落ち着かないのに、要さんはそんな私とは対照的に慣れた様子でソファへ腰を下ろしていた。

 夢見心地のまま搭乗時間を迎え、そのまま飛行機へ乗り込む。

 広々とした座席に座り、丁寧なサービスを受けながら過ごす空の旅は驚くほど快適だった。

 こんな贅沢な出張があっていいのだろうか。窓の外に広がる雲海を眺めながら、私は思わずため息をつく。

 ――このままでは、出張の目的を忘れてしまいそうだった。

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