恋をしない秘書と恋に落ちた御曹司の甘くて危険な攻防戦
 エレベーターに乗って連れて来られたフロアは、重厚な扉がいくつか並ぶだけで、一般の客室フロアとは明らかに雰囲気が違っていた。

 戸惑う私をよそに、スタッフに案内されながら奥へと進んでいく。

——ピピッ、ガチャ

 スタッフがカードキーで部屋の鍵を解錠し、大きく扉を開いて私たちが入るのを待っていた。

 促されるまま一歩足を踏み入れると――そこには、今まで見たこともないような空間が広がっている。

「……」

「そんなところで突っ立って、どうした?」

 高級ホテルというだけでも十分すぎるほど驚いていたのに、案内されたのはまさかのスイートルームだった。

 豪華なリビングに目を奪われ、私は思わずその場に立ち尽くしてしまう。ふかふかそうなソファ、大きな窓の向こうに広がる景色、上品なインテリア。

 どこを見ても映画やドラマの世界のようで、とても自分が泊まる部屋だとは思えなかった。そして、そこでふと大切なことに気づく。

「あのっ……私の部屋は?」

「ベッドルームが二つあるから、好きな方を使うといい」

「ええっ⁉」

 思わず素っ頓狂な声が出てしまった。

(今、一緒って言った? 聞き間違いじゃないよね?)

 いくら豪華なスイートルームとはいえ、部下と同じ部屋に泊まるなんて、副社長として本当にいいのだろうか。

 しかも客室が別とはいえ、同じ空間で一晩を過ごすことに変わりはない。私の心臓は、さっきまでとは別の意味で落ち着きを失い始めていた。

< 113 / 184 >

この作品をシェア

pagetop