恋をしない秘書と恋に落ちた御曹司の甘くて危険な攻防戦
 ロビーへ向かうと、スティーブンがソファに腰掛けて待っている。

『カナメ! 待っていたぞ』

『す、すみません! 私のせいなんです!』

 いくら疲れていたとはいえ、出張先であんなに熟睡してしまうなんて——後悔と申し訳なさで胸がいっぱいになった。

『ミノリが気にすることはないよ! さあ、行こう。どうせ飲むだろうと思って、タクシーを手配しておいたんだ』

 私の謝罪に、スティーブンは慌てたように首を振る。その気遣いが、今の私には少しだけ救いになった。私たちはホテルを出て、待たせてあったタクシーへ乗り込む。

『それにしても急だな』

『アポを取ろうと思って連絡を入れたら、今夜ぜひ食事をしましょうって奥様に言われたんだ』

『相変わらずせっかちな人だ』

 二人の会話を聞いている限り、そのご夫妻は完全に奥様のほうが主導権を握っているのだろう。

 何を言われるのかはわからないけれど、今のうちに覚悟だけは決めておいたほうがよさそうだった。

 ホテルを出て数分——タクシーは高級感あふれる大きな邸宅の前で静かに停車する。

「要さん、ここは……?」

「ブラウン家だ」

「こ、個人宅⁉」

 こそっと尋ねたつもりだったのに、あまりの驚きに思わず大きな声が出てしまった。

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