恋をしない秘書と恋に落ちた御曹司の甘くて危険な攻防戦
「あ、あ、あのっ」

「ん?」

 腕の中から恐る恐る見上げると、小首を傾げてこちらを見つめる要さんが視界に入る。その何気ない仕草だけで胸がきゅんと高鳴り、鼓動が一気に速くなった。

「そ、そろそろ離してもらえますか?」

「ええぇ……ヤダ」

「はい……?」

 まるで駄々をこねる子どものような返事に、思わず目を丸くしてしまう。ふわりと漂うアルコールの匂いからすると、要さんはもうかなり酔っているのかもしれない。

(どうしよう……この距離じゃ、私の心臓の音まで聞こえちゃうんじゃない?)

 落ち着こうと頭をフル回転させながら、この状況をどう切り抜ければいいのか必死に考える。

「あのっ、あのっ、せっかくだから飲みましょう!」

 本当は飲みたいわけじゃない。ただ、このまま抱きしめられていたら、私のほうがどうにかなってしまいそうで、一度お互いに冷静になる時間が欲しかった。

「そうか? 残念……」

「ぷっ」

 私をからかって楽しんでいるだけなのかと思っていた。でも、目の前にいる要さんは本当に残念そうな顔をしていて、その予想外の反応に思わず吹き出してしまう。少しだけ不貞腐れたように唇を尖らせるその表情が、妙に可愛らしくて、笑いを堪えることができなかった。


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