恋をしない秘書と恋に落ちた御曹司の甘くて危険な攻防戦
 断れない雰囲気に押されるまま、私はスタッフに案内され、店の奥へと連れて行かれた。

 そこには、まるで高級エステサロンのような落ち着いた空間が広がっている。ここまで来てしまった以上、もう流れに身を任せるしかない。

 エステのフルコースを受け、髪は丁寧にカットされ、トリートメントで艶やかに整えられる。仕上げにはプロの手でメイクまで施され、鏡に映る自分が別人のように思えた。

 それだけでは終わらなかった。

 さらにラックに並べられた服を、次から次へと試着させられる。ドレスやワンピース、スーツまで何着も着替え、そのたびにスタッフが真剣な表情で確認し、別の一着を差し出してくる。

 すべてが終わるころには四時間以上が過ぎていた。

 慣れないことの連続で、私はすっかりクタクタになりながら、要さんが待つソファスペースへと戻る。

『時任様、お待たせいたしました』

『ああ』

 短く返事をした要さんが、ゆっくりとこちらへ視線を向ける。

 そして私の姿を捉えた瞬間、その表情がぴたりと止まった。

 ポカンと口を開けたまま目を見開き、まるで時間が止まってしまったかのように固まっている。

「あ、あの……」

 あまりにも予想外の反応に、その意味がまったくわからない。不安になった私は、おそるおそる声をかけた。

「やばい……想像以上だ。いや、最高だ」

 ぽつりと漏れたその一言。 私には縁のない褒め言葉だったからこそ、本当に私へ向けられた言葉なのかと、思わず耳を疑ってしまう。

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