恋をしない秘書と恋に落ちた御曹司の甘くて危険な攻防戦
——カチャッ

「みのり……反則だ。メガネは?」

 シャワーを浴びたばかりなのだから当然スッピンなのだが、それに加えてメガネまで外している。どうやらあのメガネは視力矯正のためではなかったらしい。

 こんなにも綺麗な素顔を隠させるほどのトラウマを植え付けた元カレのことを思い出し、胸の奥で苛立ちがじわりと再燃する。

 でも、そのお陰で俺と出会うまで誰にも見つけられなかったのだと思えば、少しだけ複雑な気持ちになった。感謝なんてしたくない相手なのに、その事実だけは否定できない。

 メガネを取りに部屋へ戻ろうとしたみのりの細い手首を、思わず掴んでしまう。そのまま引き寄せると、気づけば胸の中へ抱きしめていた。

 腕の中のみのりは驚くほど柔らかくて、ふわりと甘いシャンプーの香りが鼻をくすぐる。

 俺は変態か——心の中で自分にツッコミを入れながらも、この幸せな感触を手放したくなくて、必死に理性と戦っていた。

「そ、そろそろ離してもらえますか?」

「ええぇ……ヤダ」

 思わず子どもみたいな返事をしてしまう。本当は離したくない。ずっとこのまま抱きしめていたい。

 だけど俺の理性は、もう限界に近づいていた。惚れた女が今、俺の腕の中にいる。

 その事実だけで心臓はうるさいくらい鳴り続け、今すぐベッドへ連れて行きたいという欲望が頭をもたげた。そんな衝動を必死に押し殺し、深く息を吐くと、俺は名残惜しさを隠しながらゆっくりと腕から解放する。

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