恋をしない秘書と恋に落ちた御曹司の甘くて危険な攻防戦
 次の瞬間――軽い衝撃がおでこに走る。

「イタッ」

 恐る恐る目を開けると、副社長がくすりと笑っているではないか。

「ふっ、これから楽しみだな……」

「……っ」

 意味深なその言葉に、背筋がひやりとした。慌ててメガネを奪い返したものの、ドキドキと鼓動が早鐘のように鳴り続けて収まらない。

「恋人役が嫌なら……恋人候補にしてやろうか?」

「からかうのはやめてください!」

「本気だと言ったら?」

「ふざけないでください! もう恋はいたしません! よって恋人も不要です!」

 少しでも誤解を招かないように、はっきりと言い切った。その瞬間、不意に高校時代の記憶が頭をよぎり、胸が締めつけられる。

「くくっ……面白いじゃないか」

 その表情は、冗談とも本気とも取れない曖昧なものだった。

 ただ一つ確かなのは――面倒な人物に目をつけられてしまった、ということだけ。

 副社長の秘書に選ばれて仕事が認められたと、ほんの少しでも浮かれていた自分が恨めしい。

 何を考えているのかわからない御曹司。そして、その御曹司に憧れる無数の女性たちの視線。

 平穏だった私の日常は音を立てて崩れていき、確実に前途多難なものへと変わっていく――
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