恋をしない秘書と恋に落ちた御曹司の甘くて危険な攻防戦
「要さん……よろしくお願いします」

 その言葉を、ずっと聞きたかった。胸の奥で張り詰めていたものが、その一言で一気にほどけていく。

 俺はようやく心から笑みを浮かべることができた。

 そんな穏やかな空気が流れる中——

 本日の主役であるブラウン夫妻が、俺たちのもとへ歩み寄ってきた。先ほどの一件があったのだから、当然のことながら、その表情には感謝の色が浮かんでいる。

『先日は失礼な態度を取ってしまったわよね。今日は来てくださってありがとう。それから、主人を助けていただいて、本当にありがとうございました』

 奥様は深々と頭を下げ、みのりへ真っすぐ感謝の言葉を伝えた。さすがブラウン家——世界でも指折りの富豪一族を支える奥様。

 その立ち居振る舞いも、人としての器も実に見事だった。

 俺がこれまで出会ってきた富豪の中には、無駄なプライドが邪魔をして、謝罪も感謝も口にできない者が少なくない。だが、この奥様は違う。

 自らの非を認め、恩を受けた相手には、立場に関係なく誠意を尽くして礼を伝えるのだ。みのりは恐縮して何度も頭を下げていたが、これこそが本来あるべき人の姿なのだろう。

 やがて会場中から大きな拍手が沸き起こった。祝福と感謝に包まれる中、俺たちは温かな余韻を胸に、静かに会場をあとにする。


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