恋をしない秘書と恋に落ちた御曹司の甘くて危険な攻防戦
「やっと素直になったな」

「……」

 好きで素直になったわけではない。まるで脅し文句のような言葉で、選ばざるを得ない状況に追い込んだのは副社長だ。これ以上抵抗したところで、副社長に勝てる気はまったくしなかった。

 車に乗り込んだ瞬間、身体がシートに優しく包み込まれるような感覚に驚く。明らかに特別仕様の車内に、私は緊張で身体を固くした。そんな私の様子など気にすることなく、車は静かに走り出す。車内には、副社長のイメージにぴったりなクラシック音楽が穏やかに流れていた。

 しばらく走ると、車はこの辺りでも高級だと有名なホテルの地下駐車場へと入っていく。副社長は慣れた様子で車を停めると、シートベルトを外しながら「行くぞ」と短く声をかけた。

「は、はい!」

 ここまで来てしまった以上、逃げるという選択肢はない。私は素直に従うしかなかった。

 副社長の隣に並ぶと、彼はごく自然な仕草で私の腰に手を添え、そのまま歩き出す。決して無理やりではない。けれど、その手からは有無を言わせない圧が伝わってきて、逃げ場など最初からないのだと思い知らされた。
< 31 / 184 >

この作品をシェア

pagetop