恋をしない秘書と恋に落ちた御曹司の甘くて危険な攻防戦
 支配人が出て行くと、途端に個室の中は静寂に包まれる。先ほどまで感じていた人の気配が消え、この特別な空間で副社長と二人きりになってしまった。この状況に、緊張で胸が張り裂けそうになる。

「どうした? 俺の顔に何かついてるか? 言いたいことがあるなら、はっきり言ってくれ」

「えっと……いや……あの……」

 私は無意識のうちに副社長の顔をじっと見つめていたらしい。指摘されてしまい、しどろもどろになって言葉が続かなくなる。

「まぁ、今日は親睦会だと思って、好きな物を好きなだけ食べてくれ」

 それなら室長も一緒で良かったのに――そう心の中で思う。好きなだけ食べてくれと言われても、こんな状況では緊張で何を口に入れても味が分からなそうだ。

「こ、ここは……よく来られるんですか?」

 重苦しい沈黙を避けたくて、私は必死に話題を探し、ようやくそれだけを口にする。

「ああ、子供の頃から家族で世話になってる。海外にいたら、余計にここの味が恋しくなるんだ」

 海外にも鮨店はあるはずだ。けれど、この店の味とは比べものにならないのだろう。

 きっと副社長は回転寿司になんて行ったことがない。子供の頃からこういう店で食事をしてきた人なのだ。 改めて、自分とは住む世界が違うのだと思い知らされる。
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