恋をしない秘書と恋に落ちた御曹司の甘くて危険な攻防戦
「失礼いたします」

 支配人が自ら温かいお茶と前菜を運んできた。

「あ、ありがとうございます」

 目の前に湯呑みと料理が並べられ、私は慌てて頭を下げてお礼を告げる。そんな私に、支配人は穏やかで優しい微笑みを向けてくれた。

「コースで承っておりますので、どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ」

 丁寧に一礼すると、支配人は静かに席を離れていった。

「じゃあ、いただこうか」

「は、はい!」

 仕事終わりで空腹だった私は、目の前に並ぶ美味しそうな料理からなかなか目を離せない。そして、二人きりの親睦会が始まった――

「仕事はどうだ? 何か意見があったら、どんどん言ってくれていいんだぞ」

「いえ、とんでもないです。副社長の元で働かせていただいて、毎日勉強することばかりです」

「……だから、プライベートでは副社長はやめてくれ。次にそう呼んだら、ペナルティーだぞ」

 親睦会なのだから、副社長と部下という関係の延長ではないのか。そう思っても、面と向かって口にできるはずもなく……

「勘弁してください……」

「そこは譲らない。要と呼んでくれ」

 即答だった――

 その頑なな態度は、どうやら覆りそうにない。ここは上司命令だと割り切って、覚悟を決めるしかないようだった。
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