恋をしない秘書と恋に落ちた御曹司の甘くて危険な攻防戦
 当時のことをポツリポツリと話す私の言葉を、要さんは途中で口を挟むことなく、時折相槌を打ちながら静かに聞いてくれる。

「結局のところ、私の人を見る目がなかったってことなんです」

「みのりは悪くないだろう。その男が最低だっただけだ。そんな男と出会ってしまったのは、単に運が悪かったんだ」

 あの頃の私は、彼を責める気持ちと同じくらい、自分にも非があったのだと思い込んでいた。

 だから私は恋をすることを諦めた――いや、本当は恋から逃げ出したのだ。

 今さらかもしれない。

 それでも、自分に非はなかったのだと言ってもらえて、長い間胸の奥に引っかかっていたしこりが、少しだけ溶けていくような気持ちになった。

「……ありがとうございます」

 自然と零れた言葉には、感謝の気持ちが込められていた。かと言って、すぐに恋愛へ気持ちが向くのかと聞かれれば答えはノーだ。今は仕事が楽しいし、恋愛で一喜一憂するような日々を送りたいとも思わない。

「理由は聞けたし、これは長期戦だな……」

「えっ……?」

 要さんがポツリと何かをつぶやいたが、声が小さくて私には聞き取れなかった。けれど、問い返しても教えてくれる気はないらしい。

「さぁ、行くか」

「はい! 美味しかったです」

 席を立ちながら答えると、要さんが小さく笑った。副社長である要さんと、ほんの少しだけ距離が縮まった気がする。

 仕事を円滑に進めるうえでも、こうして本音を話せたことは良い機会になったに違いない。そんなことを考えながら、私は要さんのあとを追った。
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