恋をしない秘書と恋に落ちた御曹司の甘くて危険な攻防戦
 個室を出て、カウンター席の後ろを通りながら店の入り口へ向かうと、そこには支配人が待っていた。

「いかがでございましたか?」

「すっごく美味しかったです!」

 感動のあまり、私は反射的に答えてしまう。

「くくっ……見ての通り、彼女も喜んでくれました」

 要さんが楽しそうにそう言った瞬間、自分が副社長を差し置いて答えてしまったことに気づいた。

「す、すみません……」

 慌てて頭を下げる私に、支配人は穏やかに微笑む。

「とんでもございません。大変嬉しゅうございます。またのお越しをお待ちしております」

「はい。またお邪魔します」

 深々と頭を下げる支配人に挨拶を返し、そのままエスコートされる形で店をあとにした。

 そういえば――食事中も今も、会計らしいやり取りを一度も見ていない。

「あの……」

「どうした?」

「お会計は……」

「ああ、大丈夫だ」

 要さんはあっさりと言うだけで、それ以上説明する様子はない。けれど、高級店とは縁のない人生を送ってきた私には、その一言だけでは到底理解できなかった。だからといって、今さら詳しく聞く勇気もない。

「要さん、ご馳走さまでした」

「ああ」

 私の言葉に満足そうな笑みを浮かべると、要さんはそのままエレベーターへ向かって歩き出した。

 食事も終わったし、あとは帰宅するだけ――

 そんなふうに考えていた私だったが。

「なあ」

「はい」

「少し飲まないか?」

「えっ……? でも車は……」

 思わず目を瞬かせる。だって、今日は車の運転があるからと、食事の時もアルコールは飲まずにお茶を選んでいたはずだ。

「飲みたい気分になった。タクシーで帰ることもできるし、ここに宿泊することだってできる。選択肢はいくらでもある」

「と、泊まる!?」
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