恋をしない秘書と恋に落ちた御曹司の甘くて危険な攻防戦
 だからこそ、この帰国は玉の輿を狙う秘書課の女性たちにとって、またとない好機だった。

 それだけでなく、きっと社内の女性たちも盛り上がり、大騒ぎになるに違いない。

 そんな熱気に満ちた空気の中で、私だけ温度が違っている。

 黒髪のロングヘアをきっちりとひとつにまとめ、大きな黒縁メガネをかけた私は、秘書課の中では若手の現在二十五歳だ。

 秘書課でありながら、その地味な見た目から『秘書課のお局』などと、他部署では囁かれている。

 秘書課に配属されると、多くの女性は次第に派手になっていくのだ。注目され、期待され、常に見られる環境の中で、もてはやされるうちに傲慢な態度が目に余るようになる。そんな環境の中でも、配属当初から何ひとつ変わらない私は、ある意味で異質な存在感を放っていた。

「お静かに。副社長の秘書ですが……」

 室長の一言で、場の空気が一変する。誰もが“自分かもしれない”“自分がなりたい”と期待を胸に、息を潜めて次の言葉を待っていた。
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