恋をしない秘書と恋に落ちた御曹司の甘くて危険な攻防戦
 敢えて黙っていようと思っていたのに、どうして室長がそのことを知っているのだろうか。まさか室長の耳にまで噂が回っているのだとしたら、恐ろしい話だ。

 元カレ騒動ですっかり忘れかけていたが、ふと同期の彼女の顔が頭に浮かんでくる。

「その方はどなたでしょうか?」

「ええっ?」

 私の質問はあっさりとスルーされ、逆にそれが誰なのかと尋ねられてしまう。嘘をつく必要はない。けれど、ここで素直に答えてしまっていいものなのだろうか。

 彼女はどこかのお嬢様だと聞いているし、正直なところこれ以上巻き込まれたくないという気持ちもあった。

「お答えいただけないのでしたら、こちらで調べますが……」

 それは、隠しても無駄だという意味なのだろう。室長の手を煩わせるだけになるし、得策ではないと判断した私は、小さく息を吐いた。

「えっと……同期の……」

「橋爪さんの同期……ですか?」

「はい。高橋麗美さんはご存じですか?」

「高橋って……まさか……いや、そんなはず……」

 室長が一人でぼそぼそと何かをつぶやいている。

 誰か思い当たる人物でもいるのだろうか。その表情は明らかに驚いていて、私は思わず室長の顔を見つめた。

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