恋をしない秘書と恋に落ちた御曹司の甘くて危険な攻防戦
「おい! 何してるんだ! 大丈夫ですか⁉」

 こちらに向かって、ビルの警備員が叫びながら駆けてくる。

「ちっ……! また来るからな」

 舌打ちとともにそんな捨て台詞を吐き、貴明は逃げるように去って行った。

「ふぅ……あのっ、ありがとうございます!」

 張りつめていた息を大きく吐き出し、どくどくと脈打つ心臓を落ち着かせるようにゆっくりと深呼吸をする。そして、絶妙なタイミングで現れてくれた警備員に礼を伝えた。

「おケガはありませんか? 女性が男性に絡まれていると通報がありまして」

「ケガは……大丈夫です。本当に助かりました」

 掴まれていた肩はズキズキと痛むが、病院へ行くほどではない。しばらく痕は残るかもしれないが、この程度で済んで本当に良かった。

「先ほどの男性はお知り合いですか? 警察に届け出なくても大丈夫ですか?」

「まったく知らない人ではありません。警察は大丈夫です」

 そう答えながらも、肩に残る痛みと先ほどの恐怖がじわじわと蘇ってくる。けれど、これ以上大事にしたくないという思いの方が強かった。
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