恋をしない秘書と恋に落ちた御曹司の甘くて危険な攻防戦
 今の精神状態で電車に乗る気にはなれず、大通りまで出てタクシーを捕まえた。幸い道は空いていて、車はあっという間に一人暮らしのマンションへと到着する。

 タクシーを降りた私は、無意識のうちに周囲へ視線を巡らせていた。自宅の場所までは知られていないはずなのに、少しの物音や人影にも神経が過敏になっている自分がいる。

「ふぅ……」

 玄関の扉を閉めると、すぐに鍵をかけた。ようやく安心できる場所へ帰ってきたことに安堵し、張り詰めていた息をゆっくりと吐き出す。

 仕事で疲れた時とは違い、今日は精神的な疲労が身体の奥まで重く沈み込み、何をする気力も湧いてこなかった。

 私はそのままソファに腰を下ろし、しばらく呆然と天井を見つめる。

 偶然の再会が二度続いた。そして三度目は、明らかな下心を持って近づいてきている。

 それほどまでに、私がTOKITOグループの本社で働いているという事実が、彼のプライドを刺激しているのだ。

 もしあの時、私と一緒にいた男性がTOKITOグループの御曹司であり、副社長でもあると知ったら――

 彼は一体どんな行動に出るのだろうか。考えれば考えるほど嫌な予感しかしなくて、胸の奥がじわりと重くなる。
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