恋をしない秘書と恋に落ちた御曹司の甘くて危険な攻防戦
——ピコピコピコ

 静かな部屋に突然電話の着信音が響き渡り、私は肩をビクッと震わせた。

 反射的にスマホへ手を伸ばし、恐る恐る画面を確認する。

 そこに表示されていたのは、『貴明』ではなく――『副社長』の文字だった。貴明が私の番号を知っているわけがないのに、警戒している。

「は、はい! お疲れさまです! 橋爪です!」

 慌てて電話に出ると、挨拶もそこそこに鋭い声が飛んできた。

「みのり! 今どこにいる?」

「えっ……?」

 電話の向こうの要さんは、明らかに焦っている様子だった。切羽詰まった声音に、思わず背筋が伸びる。

 何か会社でトラブルでも起きたのだろうか。

「どこだ? 早く言え!」

 いつになく強い口調に気圧されながらも、私は慌てて答えた。

「えっと、自宅ですが……何かありましたか?」

「あったのはお前だろう? すぐに行く!」

「え?」

 それだけ言うと、一方的に電話は切れてしまった。あまりの剣幕に、私はしばらくスマホを耳に当てたまま固まる。

(今……すぐに行くって言わなかった? ええっ⁉)

 勢いに押されて素直に答えてしまったけれど、本当にここへ来るつもりなのだろうか。

 混乱したままスマホを握り締めていると、途中で要さんからメッセージが届いた。

『部屋番号は?』

 どうやら冗談でも聞き間違いでもなかったらしい。私は半ば呆然としながら部屋番号を返信する。

 すると――

——ピンポーン

 メッセージが入って数分後、静まり返った室内に来客を知らせるインターフォンの音が鳴り響いた。あまりにも早い到着に、私は思わず玄関の方を振り返る。

(えっ! もう来たの⁉)
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