恋をしない秘書と恋に落ちた御曹司の甘くて危険な攻防戦
「は、はい!」

「俺……開けてくれ」

 『俺』なんて、まるで彼氏のような言葉に、そんな関係ではないはずなのに胸がドキッと高鳴った。

 けれど、いつまでも待たせるわけにもいかない。私は慌ててエントランスの扉を解錠した。そして玄関へ向かい、扉を開ける。落ち着かない気持ちのまま、エレベーターが到着するのを待った。

――チンッ

「みのり!」

 軽快な電子音がエレベーターの到着を告げる。扉が完全に開くのも待てないとばかりに、要さんが慌てた様子で降りてきた。

 次の瞬間、ガバッと音がしそうな勢いで抱きしめられる。

「無事で良かった」

「えっ……? あの……」

 突然のことに頭が追いつかない。言葉の意味も理解できないまま、密着した身体から伝わる熱に心臓がドクドクと激しく脈打った。

 広い胸に閉じ込められ、耳元で聞こえる荒い呼吸に戸惑う。

 貴明と再会してから、男性を信用できない気持ちは以前よりも強くなっている。

 怖い。傷つきたくない。もう振り回されたくない。

 そう思っているはずなのに――

 要さんに抱きしめられている今だけは、不思議と身体から力が抜けていくのを感じた。

 包み込むような温もりに、張り詰めていた心が少しずつほどけていく。

 これは恋なんかじゃない。ただ、ずっと続いていた緊張状態から解放されて安心しているだけ。そう自分に言い聞かせながらも、胸の奥で鳴り続ける鼓動だけは、なかなか静まってくれなかった。
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