恋をしない秘書と恋に落ちた御曹司の甘くて危険な攻防戦
 要さんがこの問題を引き取ったということは、事態が一気に動き出すかもしれない。そんな予感が胸の奥で静かに膨らんでいた。

 部長たちが退出した副社長室では、早速要さんから次々と指示が飛ぶ。

「日本モーター精機株式会社の田中社長にアポを取ってくれないか? こちらから伺うから、できるだけ早い日程でお願いしたい」

「は、はい」

 私は返事をすると、自分の執務用デスクへ戻った。取引先リストを開き、日本モーター精機の連絡先を確認する。社長秘書の番号を見つけると、ひとつ深呼吸をしてから受話器を取った。

 数回のコール音のあと、落ち着いた男性の声が応答する。

「日本モーター精機の道井です」

「いつもお世話になっております。TOKITOグループ副社長・時任の秘書をしております橋爪と申します」

「いつもお世話になっております」

 秘書の声色は穏やかで落ち着いており、丁寧な対応に少しだけ肩の力が抜ける。とはいえ、これからお願いする内容を考えると気は抜けない。

「お忙しいところ恐れ入ります。弊社副社長の時任が、田中社長にぜひ一度お目にかかりたいと申しておりまして、ご都合のよろしいお時間を頂戴できませんでしょうか。こちらから御社へお伺いさせていただく予定でございます」

「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」

 道井さんはそう答えると、保留の音楽へ切り替わった。私は受話器を耳に当てたまま、無意識に背筋を伸ばす。

 この面会が実現すれば、停滞していた状況が大きく動くかもしれない。そんな期待と緊張を胸に抱えながら、私は返事を待った。


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