カットNG、恋はOK ~髪フェチ美容師は失恋女子を放っておけない~


   * * *


 最初は髪だった。
 カルテに浅倉栞奈の名前を書き込みながら、蒼人は自分に問いかける。
 本当にそれだけだろうか。
 泣きはらした顔でぜんぶ切るよう要求してきた顔、鏡越しに笑う顔。ヘアケアの話をすると「別人みたい」と言って目を細めた顔。その表情ひとつひとつに蒼人はいつしか魅入られていた。
 元カレとは完全に終わりましたか、と聞いたとき、自分でも驚いた。
 そんなことを客に聞く美容師がどこにいるのだ。
 それなのに聞かずにはいられなかった。あの髪にもっとふれたいと思ったから。

 ――次に会う理由ができた。

 カットモデルという名目で。
 蒼人はカルテを閉じて、シザーケースを棚に戻す。
 髪だけではないのかもしれないと、まだ認めたくはなかった。
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