カットNG、恋はOK ~髪フェチ美容師は失恋女子を放っておけない~
「お待たせしました」
低い声がして、栞奈は振り返る。
白いシャツの袖をまくり上げた背の高い男が立っていた。
年齢は三十前後だろうか。整った顔立ちだが、表情は乏しい。名札には「峰岸」とある。
「本日担当させていただきます、峰岸蒼人です。浅倉さまですね。こちらへどうぞ」
栞奈からカルテを受け取った蒼人がカウンターへ案内する。
促されるまま席に座る。泣きはらした目をした自分が鏡の中にいた。おまけに髪は乱れている。最悪だ。
「どうされますか」
「全部切ってください」
鏡越しに、蒼人の手が止まる。
栞奈の髪はウエストまである。柔らかく、艶があって、毛先まで傷んでいないが、いまはすべてを切り落としたい気分だった。
「……全部、というのは」
「ショートにしてください。もう要らないので」