カットNG、恋はOK ~髪フェチ美容師は失恋女子を放っておけない~


 蒼人は栞奈の髪にそっと触れた。指の間をすべる感触に、眉がわずかに寄っている。

「失恋、ですか」
「……なんでわかるんですか」
「雰囲気で」

 それきり黙って、蒼人は髪を梳かし始めた。栞奈は鏡を見つめる。泣きたいのか怒りたいのか自分でも理解できない不可解な表情をしている。
 ただ、早くこの重たい髪をなくしてしまいたい。そんな執念のようなものだけが残っていた。
 それなのに、この美容師は困惑した表情をしている。

「切れません……いや、切りません」

 静かな声だった。

「え?」
「今日は切りません。毛先を整えるだけにします」
「でもわたし」
「後悔します」

 蒼人は淡々と続ける。

「失恋した日に衝動で切った髪型を、好きになれるとは思わない。せめて三日、考えてからにしてください」
「それって美容師として言ってるんですか」
「そうです」
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