カットNG、恋はOK ~髪フェチ美容師は失恋女子を放っておけない~
彼は躊躇うこともなく頷いた。栞奈は鏡の中の蒼人を見つめる。嘘をついている顔ではない。ただ、どこか必死さがある。客が髪を切りたいと要望しているのに、三日待てだなんておかしなことを言う。ふだんの栞奈なら意地を張って切るよう訴えただろう。だが、泣きすぎて疲れていた彼女は出逢ったばかりの美容師にそこまで歯向かう元気もなかった。
「……それなら、軽くしてください」
その言葉に、なぜか彼がホッとしたような表情を浮かべている。なぜそんな顔をするのだろう。たかが客なのに。
結局、その日は毛先を三センチほど切っただけで終わった。
帰り際、コートを羽織る栞奈に蒼人が言う。
「次も俺が担当します」
「……予約、取れますか」
「取れます」
「じゃあ、また来ます」
階段を下りながら、栞奈は自分でも気づかないうちに少し笑っていた。