カットNG、恋はOK ~髪フェチ美容師は失恋女子を放っておけない~
chapter,2 髪を通じて近づく距離
栞奈が失恋の勢いでバッサリ切ろうと思っていたところを「せめて三日は待て」と担当してきた美容師に言われ、「次も俺が担当するから」などと押し切られて気がつけば一週間。切りそろえられた髪は軽やかに風に揺れている。あらためて髪を切る必要もない。毛先はあのとき整えてもらったし、パサつきも気になっていない。どう考えても今すぐ美容院に行く理由はなかった。
「ない……んだけど」
仕事帰りの栞奈は最寄り駅の改札を出たところで立ち止まり、スマートフォンを眺めた。画面にはDearstarの予約サイト。峰岸蒼人、と名前を検索すると、今夜の最終枠がまだ空いていた。斜に構えた横顔の写真は美容師というよりも研究者みたいに見える。
『親愛なる星たちへ』と柔らかなフォントで記された隠れ家的サロン、Dearstarの店舗案内。珍しい苗字のはずなのに、峰岸の名前は複数あった。そのうちのひとつが栞奈が髪を切ったお店のサロンオーナーのものと一致している。若く見えたが、あれで一国一城の主なのかと栞奈は驚き、興味を抱いた。
――あの美容師のことをもっと知りたい。
それは髪を切りに行く理由になるのだろうか。
「……現金すぎる」
自分に呆れながら、栞奈は予約ボタンを押していた。