カットNG、恋はOK ~髪フェチ美容師は失恋女子を放っておけない~


   * * *


 雑居ビルの階段を上りながら、深呼吸を繰り返す。前と同じシャンプーの香りに胸がときめく。
 ドアを開けると、カウンターの奥から蒼人がこちらを見ていた。

「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」

 表情は相変わらず乏しいが、栞奈の姿を認めた彼の目元がほんの少し、和らいでいる気がした。
 気のせいかもしれない。それでも栞奈の心臓が跳ねるには充分な威力を持っていた。

「どうぞ」と促されて席に着く。今日は泣きはらした目ではない。相変わらず仕事帰りでくたびれてはいたが、それでも前回より気が楽だった。

「今日はどうされますか」
「えっと……またちょっと整えてもらえますか。あと、なんか相談したくて」
「髪の相談ですか」
「そ、そうです」

 蒼人が髪にふれた。前回と同じ手つきで、丁寧に、確かめるように。
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