さっちゃんはオトコたらし。~スパダリ幼馴染の甘々調教からは逃げられない~

第3話 昔の初恋

「高身長でモデル体型で、とにかく顔が天才的に整ってるらしいの。なんていうか、大人の余裕があってスパダリオーラ全開なんだって!」

「しかもさ、出身中学があの『皐月ヶ丘中学』らしくてさ!大学も誰もが知ってる超難関国公立を卒業してるんだって。完璧すぎない?」

(え、皐月ヶ丘……?)

不意に鼓膜を震わせた馴染み深い単語に

私は口に含んだばかりのコーヒーを吹きそうになり、慌てて両手で口を押さえた。

コクのある苦味が喉の変なところに入りそうになり、激しくむせ返りそうになるのを必死で堪える。

(黒崎…それに、皐月ヶ丘って……)

脳裏に、一人の少年の姿が、強烈な磁力を持って浮かび上がってきた。

心臓がドクン、と大きく跳ね上がる。

(嘘…まさか、ね。いや、さすがに偶然なはず)

同姓同名の可能性なんて、大いにある。

だって、彼が遠くの街へ行ってから、もう十年近くの歳月が流れているのだ。

そんな漫画みたいなタイミングで

私の目の前に彼が再会を果たすなんて、現実にあるわけがない。

「ちょっと、桜ちゃん大丈夫?顔、真っ赤だよ?」

隣の席の同期が、私の異変に気づいて心配そうに覗き込んできた。

「へっ?!あ、ううん!なんでもないの!ちょっと、コーヒーが思ったより熱くて……」

引きつった笑顔で誤魔化しながら、私は大急ぎで視線を手元のキーボードへと落とした。

しかし、タイピングを再開しようとする指先は微かに震えている。

心の中では、すでに大型の台風が猛烈な勢いで吹き荒れていた。

黒崎、叶人くん。

かつて私が、幼い胸にそっと抱いていた淡く切ない初恋の相手。

(…いや、絶対に違う。違ってくれないと、私の心臓がもたない)

だって、同期たちが声を弾ませて噂しているのは『高身長の超絶イケメンで、仕事もできるスパダリな営業部のエース』だ。

しかし、私の記憶の引き出しの最前列にいる

「叶人くん」は、綺麗に真逆の位置にいる男の子だった。

幼稚園から小学校、そして中学校の途中まで、ずっと一緒の時間を過ごした幼馴染。

彼は透き通るように色白で、線が細く、守ってあげたくなるほど華奢だった。

そして何より、筋金入りの「泣き虫」だったのだ。

近所のやんちゃな男の子たちに少しからかわれたり、意地悪を言われたりしただけで

すぐにその大きな瞳をうるうると涙でいっぱいにさせてしまうような子。

『さっちゃぁん…みんなが、いたずらするんだようぅ……』

私の後ろにトコトコと隠れて、ぐすぐすと鼻をすすりながら

私の服の裾を小さな手でぎゅっと掴んでいた、頼りない背中。
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